<3日目ー1>
1997年11月14日 金曜日 プリ―(PURI) 晴れ
昨晩22:40、カルカッタのハウラー駅を発車した「8007 Howrah-Puri Express.」に乗って、一路プリ―(Puri)を目指している。
<プリ―(Puri)>
AM:6:40 気が付くと朝。茶色のシェードが掛かった窓から陽が射している。
線路沿いには、バラックの様な小屋が何軒も建ち並んでいる。
列車が停車していた。
此処が何処だか分からないが、まだAM8:20の到着予定時間には間があるはずだ。
昨晩、私が予約していたLower BerthからUpper Berthに代わってあげたので、お礼にブランケットを借りてくれた夫婦と女の子二人の家族が、荷物を持って列車を降りていくところだった。
Upper Berthの上からブランケットのお礼と、「Bye bye」と言うと、女の子も「Bye bye」と言って出ていった。
プリー(PURI)駅にはAM8:20到着予定だが、なかなか着かず、AM10:00頃列車が暫く停止した。既に寝台は仕舞われ、座席に座っている。
インドの駅は駅名の表示が少なく、ホームの前後と真中付近しかない。駅に入る時、端の表示を見ておかないと、列車の止まる場所によっては駅名が判らない。この駅も判らず、時間からしてPuri駅ではないかと疑心暗鬼になる。
一人きりで座っている座席の前を、物珍しさからか、日本で言えば小学校高学年と低学年位の姉妹らしい女の子が、手を繋いで何回も通る。
ピンク色のシャルワール・カミーズ(パンジャビドレス)姿で、目鼻だちの綺麗な子で、わざと無関心そうにこちらを見ない。
何回目かに通った時、「Excuse me. Where is this station ?」と聞いてみた。
姉の方がまっすぐこちらを見て、「ブバネーシュワル Bhubaneswar」と教えてくれた。そして、流暢な発音で「Where are you from?」と聞いてきた。
「from Japan.」と答えると、「ふーん」という顔で、それ以上の関心はなさそうに行ってしまった。
Bhubaneswarはオリッサ州(Orissa)の州都で、Puriの一つ手前の駅だ。もう直ぐだと思ったが、予定より大幅に遅れて、12:40にプリ―(Puri)駅に到着した。
ticketに書かれたカルカッタからの距離は502Kmで、東京ー大阪間位の距離だが、出発が22:40だったので丁度14時間掛かったんだ。
白い壁に「PURI」と描かれた、ハウラーに比べれば本当に小さな駅舎を出るとき、どの宿に行こうかまだ考えあぐねていた。
ガイドブックで見た「Traveller`s Inn」か「Love & Life」、「サンタナロッジ」の何処にしよう。決める間もなく沢山のリキシャワーラーに囲まれ、押し付ける様にホテルの案内が書かれたチラシを渡された。
その中の、ルンギー姿の年配のワーラーの漕ぐサイクルリキシャに乗った。
私がまだ行く先を言わぬ前に、「Love & Life?」と訊く。
色々説明しなくて良いので、「Yes、Please.」と言うと、走り始めた。
あれっ??料金交渉していない。しかしもともとそのゲストハウスが何処にあるのか判らないので、値段の決めようもないけど。
プリー(Puri)は、ベンガル湾(Bay Bengal)に面した海岸沿いの保養地だ。
ヒンドゥー教徒以外は中に入ることが出来ないとガイドブックには書いてあった、神聖なジャガンナート寺院(Jagannath)のあるヒンドゥー教の巡礼地でもあるが、この旅行の計画を考えたとき、インドでもカルカッタやこれから行くデリーの様なインドらしい混沌とした過密な街だけでなく、ほっとできる様な小さな町にも行ってみたかったのだ。本当にこの町がそうなのかは分からないけど。
プリー駅を出たサイクルリキシャは一旦海岸に向かって走ると、Chakratirtha Rd.に当たって左に曲がる。この海岸と平行に続く幅広い道路の周囲は、海辺の保養地らしい白い壁に赤い扉の付いた二階建ての家が並び、高い椰子の木や白い花を付けた木が風に葉を揺らしている。
道には私を乗せたサイクルリキシャ以外、野良牛が歩いているだけだ。
暫く走るとゲストハウス「Love & Life」に着いた。
サイクルリキシャの代金は、Puri駅から「Love & Life」まででRs 4(約14円)だった。
<ゲストハウス「Love & Life」に投宿>
道路脇の小屋の様なレセプションに入ると、ガイドブックでは「オーナーと日本人の奥さんが温かく迎えてくれる」はずだったが、ローカルの若者が何の用だという様に無愛想に迎えてくれた。
「Can I get a room ?」と切り出す。ドミトリーかシングルか聞かれたので、「Single, no A/C, attached bath」と条件を言う。
インドでは「with bath」とは言わず、「attached bath」と言っているのを聞いて、同じように言ってみた。
Rs125 (約438円)/ 1day.とのこと。
「May I see the Room?」部屋を見せて欲しいと言うと、別の若い男性が案内してくれる。敷地内にあるドミトリーのある棟とは別の、アパートの様なコンクリート製の3階建ての建物で、その3階の真ん中の部屋だった。
部屋の中はコンクリートの壁を白く塗った監獄の独房の様に小さな空間で、幅は両手を広げると手が届いた。
外廊下から入ると、ドアの横に電話置きのような小さなテーブル。蚊帳の吊られた細長いベッドに椅子が1脚。壁が少し抉れて幅の狭い棚になっている。
両側が壁なので、光や風が入るのは外廊下に面したドアの横にある細長い窓しかない。入口のドアには南京錠が掛かっている。
奥は和式便器に金隠しが無いような形の、インド式の便器のあるトイレ兼シャワールーム。
便器の上に水が降り注ぐような位置に固定式のシャワーヘッドが突き出している。壁に蛇口があって、下にバケツが置かれ、中に水を汲みだす小さなプラスティックの桶が入っている。ヤモリが一匹、天井近くに貼り付いていた。