歳をとっても旅が好き

海外ひとり旅の記録?いや記憶かな

インド・パキスタンひとり旅(2000年) <16> まだまだ4日目 ムルタンへ向けフライングコーチは夜道を往く

<4日目ー3
2000年 3月12日 日曜日 ラホール(LAHOR) 晴れ

<道に迷って車の鈑金工場に>
道案内をしてくれた若者2人と別れた後、まだ暗くなるまでには時間があるので、New Anarkali Bazarからホテルまで歩いて戻ることにした。
手元には正確ではないがガイドブックからコピーして来た地図があるし、行きのオートリキシャで辿った道の記憶があるので、なんとかなるだろう。
取敢えずモールロード(Mall Rd.)を目指そう。そう思いながら、近道をすることに。目星を付けて、少し手前からショートカットしようと横道に入ってみた。

片側にゴミの溜まった溝(どぶ)が掘られた、幅2.5m位の小路の左右は、窓の少ない高い煉瓦積の家屋の並ぶ住宅地で、薄暗く人通りがない。並んでいるのは同じような2階建ての建物で、角を曲がった途端、方向が分からなくなる。

ラホールの裏町

あれっ?!嫌な予感がする。道迷いか?戻ろうか、それとももう少し進んでみようかとまた角を曲がると、今度は幅がもう少し広い道路に出た。横の家はコンクリートの塀が途中で切れていて、中庭が見えた。

通り過ぎながら中を覗くと、小さな車が、全身灰にまみれた様に白くなって置かれていた。良く見ると、どうも日本の旧い軽自動車のスズキ・アルトの様だ。
隣のインドでは、マルチ・スズキはアンバサダーと並んで沢山目にするし、ここパキスタンでも一昨日の空港到着時は、スズキの軽バン「SUZUKI」でホテルに行ったくらいなので、中古のアルトがあってもおかしくはないのかなぁ。
それに灰かぶりの様な車を良く見ると、フロントやサイドのガラスには新聞紙の様なもので覆いがしてある。もしかしたら自動車の塗装工場かなぁと興味を惹かれ、中を覗き込んで見ると、奥のガレージの様な所で、汚れて薄いえんじ色になったシャルワール・カミーズを着た男性が3人、車を研いでいた。

中を覗き込んでいる不審な外国人(笑)に、ガレージの男性たちが気付いたので、「Excuse me. Is this auto repair shop? すいませ~ん、此処は自動車修理工場ですか?」と聞くと、顔を見合わせて曖昧に頷いた。
入口に置いてあるアルト(と思しき車)を指さして、「Is it Full painted? 全塗装する最中ですか?」と聞くと、ペイントに反応したのか、こちらに近づきながらそうだと。
「After this , sanding and painting? この後、研ぎをしてから塗装ですか?」とたどたどしい英語で聞くと、表情を崩しながら「良く知ってるなァ」の様なことを言う。

英語ではない様だ。
すかさず「I’m tourist from Japan. I’m interested, so could you show me how you work? 私は日本から来た旅行者ですが、興味があるので作業するところを見せて貰えませんか?」と聞いてみた。これにもJapanと、私の興味丸出しの顔つきに反応したのか、塀の中に入れてくれた。

入口に置いてあったスズキは、やはりアルトの中古車だった。SS30Vじゃないだろうか。もしかしたら4ストロークに置き換わったSS40Vかもしれないが。
車が1台しか入らない屋根の下のガレージでは、見たことのない旧式の外車(日本車以外という意味)の板金作業中で、叩きだした後にパテを入れて、それを研いでいる最中だった。

私が熱心に見ているので、作業中の親方らしい男性も、2名の若い手持ち(助手)と思しき若者も面白そうに私を見ている。
この後は、「After this ,Primer and Surfacer? プライマーとサフェイサー?」と聞くと、頷いて、また笑った。
日本の鈑金、塗装工程と殆ど同じだ。面白い。

私がお礼に奢ろうと、「Would you like some Chai? チャイ飲みませんか?」というと、親方の男性は作業を止めて、手持ちの若い男に何か言いつける。暫らくしてチャイの出前が来た。私が「How much?」と言ってお金を渡そうとすると、塗装屋の男は笑いながらいらないと言う。
申し訳ないが、言い出した私がごちそうになって仕舞った。

チャイを飲みながら、あのアルトを指さして、「How much is a Full Paint job and how many days will it take? 全塗装の料金って幾ら?日数はどの位掛かるの?」と尋ねると、「Rs.10,000」(約25,000円)と「7日間」だと。

お礼を言って工場を出ると、これ以上迷わないよう潔く来た道を引き返して、再び大通りに出ると、オートリキシャを拾ってホテルに戻った。Rs.30(約72円)。

<ムルタンへ向けフライングコーチは夜道を往く>

18:00、Hotel Indusに戻り、2泊のつもりだったが急遽check outすることになったと伝える。するとレセプションの男性は、デポジットは戻らないが良いかと訊くので、良いという。
その際、これからMultanに行ってくるが、「I will come back to this hotel.」と言うと、どの位の間だというので、「Maybe 2days later.」と答えた。
20:00、荷物をまとめてcheck out。
ホテル前からオートリキシャでTDCPへ行く。Rs.10(約24円)。

ムルタン行きのバスチケット

出発の時間になっても、TDCPのオフィスの横に停まっているのは、フライングコーチFlying Coach(A/C付きの長距離バス)ではなく、小型のミニバスだった。
えっ?これでムルタンまで5時間も乗って行くのかと疑問が湧いてくる。しかし待っていた人は全員これに乗ったので、私も乗り込む。なにか契約に偽り在りの様な気がするなァ。

21:00、Flying Coachならぬくたびれかけたミニバスは、勇躍Multanへ向け出発した。
始めは市内のホテルやゲストハウスを順に廻りながら客を乗せ、郊外に出る。
人気の少なくなった夜の街を抜け、ミニバスは街道を走って行く。
やっぱり本当にこのバスで行くんだなぁと思い始めた頃、街道の両側に羊の入った囲いが続く広場で停止した。

道端に出したチャルポイ(Charpai)とかチャーパイとか呼ばれる、四角い木枠に網を張った寝台で、シャルワール・カミーズ姿の男達が横になっている。そこいら中の囲いから羊の鳴き声が聞こえる。どうも羊の市場の様だ。

チャルポイ

此処の真ん中の空き地でミニバスは停まり、乗客は皆降ろされた。
トイレ休憩かなと思っていると、直ぐ側に日本の中古車らしい大型バスが停まっている。
此処でこのA/C付の大型バスに乗り換える。これが所謂本物の「フライングコーチ」(Flying Coach)らしい。
乗客は、ミニバスで来た人たちと此処で新たに乗り込む人がいたが、私を除いて全員がローカルの人で、欧米人を含め外国人は私ひとりだった。
車内は中古の観光バス然としているが、座席のクッションも良く、冷房もあるので有難い。
我々を乗せると、暗い闇の中を、一路「LMQ Rd」をムルタンに向かって走り始めた。

ラホールからムルタンへ