歳をとっても旅が好き

海外ひとり旅の記録?いや記憶かな

韓国ひとり旅(1997年) <6> まだ1日目 初めての夕食

<1日目ー5
1997年3月12日 水曜日  釜山 晴れ

 

<今夜の夕食は>

薄暗い階段を降りてまだ明るい路上に出たが、人通りは少ない。

付近の路地を曲がって食堂を捜すが、判らない。
日本の様に暖簾が掛かっていたり、店頭に食品サンプルが飾られているわけではない。無機質なコンクリートの住宅の一階に並ぶ店の表には、何も置かれておらず、扉も閉まったままで、外から見るとしもた屋も商店も食堂も、みな同じ作り、同じ佇まいだ。

だから唯一、表のガラス戸に「食堂」(シッダンsigdang)のハングルの文字を探し、ガラス戸に品書き風の書いて有る店舗を探す。
食堂らしい一軒の前で、とりあえず入ってみようとした。
もともと本場の韓国の食堂にはどんな料理があるかも判らないのだから、焼き肉のカルビでも頼めばいいだろう位に考えていた。

 

アルミサッシのガラス戸を開けると、まだ開店間もないのか、中はがらんとしていた。四角いテーブルが6卓程あり、奥に厨房があったので食堂ではあったが、びっくりしたのは、左手に大きな水槽があり、水の中で生きた魚が悠々と泳いでいたことだ。

奥から50才位と30才位の二人の女性が出てきて、韓国語で話しかけてきた。
注文は何にするんだ、というような事を言っているらしいが、さっぱり判らない。
まだ早いのか他の客はいなかったが、拒否されている様子もなかったので水槽の横の椅子に座った。
女性達は私が韓国語を解さないのは判ったが、彼女達も他の言葉を話せないようで、一体何語で話せばいいのかと、言いたいことが口の中で一杯になってしまった。

 

そして「Fish Only?」と聞いた。
すると右手の壁に貼られた白い短冊の品書きを指さし、心配そうにこちらを見る。
短冊は7、8枚しかなく、大きな水槽を置いているところから多分活魚専門店なのだろう。しかし、その一番安いのでもW10,000(約1,400円)もする。

釜山は漁港で新鮮な魚料理が有名な所なので、偶然とはいえこの店に入ったのだから活魚料理を食べてもいいなと思い始めていたが、W10,000は高い。
一晩泊まる宿がW20,000なのに、偶然食べることになっただけの、たった一度の食事にW10,000とはあまりに高すぎる気がした。しかし、お腹が空いた。きょうは昼前に、飛行機の中で、まだ解凍しきれていない機内食の寿司を食べただけだった。

ここを出てもまた食堂を捜すのかと思ったら、とにかく贅沢は今回限りにしてと、都合の良い理屈を付け、品書きの右端の値段の一番安いのを指さして注文した。

 

<韓国の活魚料理>

年輩の女性がカウンター越しの厨房に入り、若い方の女性は水槽の裏に回って、網で中を2、3度さらってから小形の魚を掬いだした。 

テーブルには、まず直径10センチ位の錫色の金属製の小鉢に、キムチ、野菜のゴマ和え、などが6品並んだ。
一瞬韓定食でも頼んでしまったかと思ったが、韓国では一品料理にも副食が付くのでその豪華版かと納得したが、次に先ほど生け簀から出した魚の刺身が出た。

厨房の奥で捌いていた年輩の女性が、私のテーブルの横まで来て、多分「どうだ」と言うように韓国語で聞く。
私は皿から金属製の箸で一切れ取り、わさびを溶いた醤油に付けて口に入れると、普通の刺身より新鮮なのでコリコリして堅い。

刺身好きの人ならこの様な食感がうまいと言うのだろうが、私は焼き魚の方が好きなタイプなのであまり感動は無かったが、ここがコミュニケーションの機会だと思い、じっと見ている女性に「マシイッソヨ」おいしい、と言ったら、少し安心したようにして、「マシッソヨ」と発音を訂正してくれた。

一般的な刺身料理(観光案内より)

 

刺身の身をとって残った骨の部分に野菜を入れた鍋が出て、テーブルの上は一杯になってしまった。
すると、これを全部食べるのかと思ったら、急に箸が進まなくなってしまった。
しかしここで出されたものを残したりしたら、日本人はやっぱり贅沢で傲慢だと誤解されてしまう。

そこで何とか全部食べようと方法を考え、まず「食べた」と見栄えのする6つの小鉢から片付けようと端から食べ始めた。
小鉢は野菜が多く食べ易い。一つ食べ、二つ食べし、空いた小鉢を見て努力の成果を確認していると、側で見ていた若い方の女性が、なんと空いた小鉢を持って厨房に入り、今度は山盛りにして持ってきたのだ。
韓国人なら「アイゴー!!」うわっ、やれやれ、と言うところだ。

 

これでは仕様が無い。あとは食べられるだけ食べようと、気を取り直して鍋に箸をつけると、これが美味しい。だしが利いていてご飯が進む。本当はこれとキムチだけあればいいのにと思いながらも、この店の名物は新鮮な刺身なのだろうからと残さずに食べた。

ほとんど食べ終わろうとする頃になって、スーツを着たサラリーマンらしい二人連れが入って来て、二階があるらしく階段を上がっていった。
店が混んできたのを見て立ち上がり、W10.000札を渡し、「マシッソヨ、カムサハムニダ」おいしかった、ありがとう、と言ったら韓国語でなにか言ってくれた。

重いガラス戸を開けて店を出た。